ソーシャルセクターで「働く・活動する・稼ぐ」人たちが、
それぞれどのような生き方・キャリアを歩んできたのかを
インタビューして発信していこう、というこの企画。

ちょっと先をいく先輩のキャリア形成過程を紐解いてみることで、
このセクターでキャリアを積むことの大事なヒントが見えてくるはず。

*前回インタビューはこちら

第2回目のゲストは
GRASSボードメンバーである、五井渕利明さんです。

 

 

 

 

 

五井渕さんのプロフィールはこちら

行政職員からソーシャルセクターへの転身。
(特)CRファクトリーの事業部長として、組織の中で「攻め」の立場で
どう稼ぐかを考える一方で、独立したコンサルタントとしても活躍。
事業立案、講師、クライアントへの提案から実施までワンオペでやる
ことも多い、という五井渕さん。

キャリア選択のターニングポイントで何を考えどう動いたのか?
今の稼ぎ方ができるような能力をどうやって身につけたのか?

という点を重点的にお聞きしました。

 

ターニングポイントは、映画作りの現場で感じた、真をつく人間関係

 
群れるのが嫌いで、学生時代はとても攻撃的な性格だった、という五井渕さん。
東京都北区役所職員、つまり公務員として社会人デビューすると同時に、
「もっと人と仲良くなって友だちを増やそう!」と社交デビュー。
サッカー、フットサル、バスケ、バドミントン、マラソン、登山、水泳、
サバイバルゲーム、旅行などなど、たくさんの企画やサークルを立ち上げた。

その中の一つ、公務員の横のつながりをつくろう、という有志の自主勉強会での
ゲストとの出会いが、その後の五井渕さんのキャリア・生き方の選択に大きな
影響を与えることになった。

その一人が、ものがたり法人FireWorks(以下、ファイアーワークス)
取締役で脚本家の栗山宗大(くりやま そうだい)さん。
 

僕はずっと「自分は何者にもなれない」と思っていて、
自分にも他人にも冷めた視点を持っていました。
栗山さんに初めて出会ったときも、
「市民参加型の映画づくり」というファイアーワークスのコンセプトに対して、
「何がモチベーションなんですか?何のためにやってるんですか?」、
と聞きました。
結局、脚本家というすごい才能を持った人の自己満足なんじゃないの?っていう。

今思えば、すごく嫌な感じで聞いたと思うんですけど
栗山さんはそれを受け止めてくれて、シンプルに
「続けられているのは、一緒にやる人・仲間と同じ熱量でどこまでもいける、
そう思える関係性を持てているから」と答えてきて。
これはカルチャーショックでした。
技術とか才能とか、「コレ」という確たるものを自分の中に持っている
(ように見える)、それを仕事にしているクリエイターが、
「価値基準は人だよ」と言う。

「そんな風に生きてもいいんだ」と思いました。
「やりたいこと・できることがない自分」というコンプレックスに、
大きなヒビが入った瞬間です。

 
その後参加した、岐阜県恵那市での映画「ふるさとがえり」の制作現場で、
五井渕さんはさらなるショックを受ける。
 

僕は映画の素人だし、ここがふるさとだと思える田舎もない。
地域で映画をつくる、その現場に行くなんて、
最初は排除されるんじゃないかと怖かった。
でもまったくそんなことはなかった。
映画をつくることで、50人とか100人の人たちが一体になる。
なんでこの人たちはこんなに熱く盛り上がれるのか。
「なんだここは」っていうショックを受けました。

何ができてもできなくても、ただただ一生懸命に、
ちゃんとコミットして関わる、ということをすれば関係性がつくれる、
つながりが生まれるんだ、ということをここで初めて実感しました。

その時、こういう世界観のなかにいたい。
こんなコミュニティの一員でいたい、と強く思ったんです。

 

半年後、完成した映画「ふるさとがえり」を岐阜で観た時には、
涙が止まらなかったという。

五井渕さんは、上映会スタイルで一つずつ丁寧に場をつくって全国に
映画を届けていく、というファイアーワークスの活動にその後もコミット
することを決め、公務員をしながら、上映会の運営をボランタリーな仕事
としてやり始めた。

 

「この関係性の輪の中にいたい」「この人たちと仕事がしたい」という直感を信じる

 
並行して続けていた公務員の有志の勉強会で次に出会ったのは、
CRファクトリー代表の呉哲煥(ご てつあき)さん。

ちょうど、ファイアーワークスでの活動の経験から、
「ボランティアマネジメント」や「コミュニティ運営」
について学び始めた時期だった。
 

CRファクトリーのセミナーにも何回か参加して、
なんとなく、呉さんいいな、と思ったんです。理由なく、直感的に。
それで、「僕もCRファクトリーで何か一緒にやれませんか」って
自分から声をかけました。

 
それまで、何か役に立てないとその場にいる資格がない、
と考えていた五井渕さんだったが、
ファイアーワークスやCRファクトリーに参加することで、
「どんな自分であっても、この人たちと同じコミュニティにいていいんだ」
と実感。
自分だけではなくて他の仲間たちのためにも、そんな場を守っていきたい、
と考えるようになる。

そして2014年3月、公務員を退職する。
 

「この人たちと一緒にいたい」という気持ちを優先して生きていこう、
と決めました。

何をやるかではなく、誰とやるか。そこをごまかしたくない。
ファイアーワークスやCRファクトリーとともにやっていくことに
人生をかける。それが自分の人生の選択だと。

 

「やる」と決めたら、そこに自分を引き上げる。能力は自分で伸ばす

 
公務員を退職し、フリーランスとして独立したものの、
CRファクトリーもファイアーワークスも案件ベースの仕事で、固定給はなし。
稼ぐためには、自分で事業を一つ一つ提案し、企画・受付から講師まで、
全て自分で段取りして担う必要があった。
最初は創業者たちがつくってきた関係性を使わせてもらって、
引き合わせてもらったり、提案したり。
セミナーや上映会をコツコツ実施した。

最初の1年はきつかった、という五井渕さん。
でも2年目は、1年目にしこんだ仕事が徐々に返ってくるようになった。
と同時に、増えた仕事に対して、自分の経験が足りていないことを痛感。
その時のふんばりが、のちの五井渕さんの強みになった。
 

必要に迫られれば能力はつく。
自分の力が足りないところは勉強してなんとかしようとあがきました。

 

そして独立して3年目には、着実に成果を出せるようになっていた。

 

「やる」と決めたことに向かって、自分を引き上げる・やる、しかない。
仕事量は毎年増えてます。でも労働時間は減ってる。

成果も出せている実感があるし、稼ぎも増えてます。
使ってる時間が減ってるのは、自分が成長したから。

この時期に状況対応力、学習能力を身につけて
自分の強みにできたことは大きい。

必要なら能力は伸びるし、伸ばせる。
自分のキャパは、自分で拡げていける。

 

自分にも相手にも学びになる問いをかけながら、共に成長する

 
一緒に仕事をする「人」を軸にした人生の選択。
仕事という関係であっても、「お互いの人生にコミットし合う」関係でありたい、という。
相手と本気で関わり、その人のために本当に泣いたり笑ったり怒ったり。
時には厳しいフィードバックもする。
 

今この人にどういう問いをすればお互いに得るものがあるのか。
何を語ることが相手にとっての問いになるのか。
そういうことを常に意識していたい。
考えてやることは場数になる。なんとなくでは場数にならない

 
いつも他人のことを本当によく見て適切なフィードバックを返す五井渕さんだが、
自分自身のビジョンや数年先のことを考えるのは苦手、という。
 

個人としてのビジョンを明確に描いて進んでゆくことは苦手。
でも、「この人たちでやる」と決めた数人でちゃんと話して、
握りあえた大切なことを一つ一つやっていければいい。
その言語化・事業化する役目をとることが、自分の仕事や
ミッションステートメントになる。
今はそういうフェーズ。

そのうち、自分なりの山頂が見えてそこに名前をつけるのかもしれないけど、
まだまだ、自分に足りないこともたくさんある。
だから今は成長したい。もっと意味のある人生にしたい。

 

常に学び、自分を成長させることに貪欲な五井渕さん。
彼のフィードバックによって大事な気づきを得た人は少なくない。
「一緒に仕事をしたいと思えるかどうか」は、
「仕事」以前に「人」としての姿勢や価値観を問うことであり、
それは実はとてもシビアな視点。
しかしその先には、「共に学び合いながら仕事をしていこう」
「一緒によりよい人生を生きていこう」という彼のあたたかい姿勢がある。
 

(文責:星野美佳)